夜中の鏡が怖い理由は霊じゃなく、僕らの目がサボるからだ

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オカルト

夜中に洗面所とかの鏡とうっかり目が合って一瞬びっくりしたりすることあるよね?

あの感じを分かってくれる人は多いと思う。
別におばけとか変なものが映っているわけじゃない。
ただ映っているのは自分だ。

それなのに、昼間の鏡では絶対に起きない種類の怖さがそこにある。

昔からこれは怪談でも話されてきた話なんだけど、夜中の鏡は別の世界とつながっているとか、覗き込んではいけないとか、そんな話聞いたことがあると思う。

でも実は、この現象を実験室で再現しようとした記録がある。
しかも条件を揃えると、ほとんどの人に起きる現象があることがわかったんだ。

今回はXのフォロワーさんからのリクエストに応えて、夜中の鏡に何が映っているのかを目の仕組みからたどって、鏡に映る未来を覗き見てみようと思う。

夜中の鏡が怖いのはただ暗いことが理由じゃなかった

同じ洗面所を昼と夜で並べた写真。昼は影が濃く、夜は明暗の差が小さい

夜中の鏡を怖く感じるのは暗いからだと思うだろう。

でもそれだけが理由だったわけじゃないんだ。

暗さは条件のひとつではあるし、真っ暗な廊下でも恐怖は感じるけど、鏡が僕らに与える恐怖はそれだけじゃないんだ。

鏡が僕らに影響する怖さには、暗さとは別にもうひとつ条件がある。
それは僕らが鏡をじっと見る事なんだ。

夜中の洗面所を思い出してほしい。
電気をつけず、もしくは小さな明かりだけで鏡の前に立ったとしよう。
そして寝ぼけた顔を、しばらくぼんやり眺めることになる。

ただ、昼間だと状況は変わってくる。
歯を磨いたり、ぼさぼさの髪を直したりしながら、視線はあちこちに動いている。

つまり夜にだけ感じる薄暗さと、動かずに見つめることの2つが、同時に揃ってしまう。
この2つが揃ったときの現象は、実は200年以上も前から見つかっているんだ。

見つめ続けた自分の顔がじわじわ溶けていく世界

中央の一点を見つめると周囲の模様が背景に溶けていくことを示した図

1804年、スイスの医師トロクスラーが妙なことに気づいた。
視界の一点をじっと見つめたまま動かさずにいると、視点のその周りにある動かないものがゆっくり消えていく。

視界から見えなくなるわけじゃなく、そこにあるはずのものが背景に溶けていく感覚をみんなも経験したことがあると思う。
これを今ではトロクスラー効果と呼ぶ。

なぜそんなことが起きるのか?
原因は目から脳へ情報が届くまでの仕組みにあるんだ。

目の奥で光を受け取る細胞も脳へ信号を送る細胞も、変化のない刺激を受け続けると慣れて信号を弱めていく。
同じ匂いの部屋にしばらくいると匂いを感じなくなる現象と同じことが目で起きている。

じゃあ慣れて消えていくのなら、なぜ普段の僕らの視界は一点を見続けてもぼやけていかないのだろう?

実は僕らの目は、一点をじっと見つめているつもりでも自分の意思とは関係なく細かく動き続けているんだ。
この小さな目の動きをマイクロサッケードと言う。

視野の中にはいろいろな情報があるから、脳が無意識にそれを取りに行こうとしているのかもしれない。
そしてそもそも視線を一点に留めておくこと自体、意外と難しい話なんだ。

似たような話でこの一点を見つめる錯覚を体験できる画像を見続けたことがある人もいると思う。
僕も昔やったことがあるけど、周りがだんだん同化して見つめている一点だけがはっきり見えるようになった。

ただこれがかなり集中しないと続かない。
そして集中が切れた瞬間に目を動かすと、なじんでいた周りの景色はもとに戻ってしまうんだ。
目が動くと見つめていた場所がずれて、慣れてしまった細胞の代わりにまだ慣れていない細胞が景色を受け取るようになるんだ。

ただしこの仕組みには弱点がある。
明暗の差が小さいものほど、目が細かく動いていても慣れが早く進んでしまうんだ。

薄暗い洗面所で見る自分の顔は、まさにこの条件に当てはまる。
輪郭も、影も、色も、昼間より弱くなっているからね。

そして夜中の鏡の前で、僕らは動かずに自分の顔をじっと見つめている。
目が見え方を守る仕組みがいちばん働きにくい状況で、自分の顔と向き合っているんだ。

薄暗い部屋で10分、そこに知らない誰かが立っている

暗い部屋で、後ろの床を照らす電球と正面の鏡のあいだに座る人の配置図

暗い部屋で鏡を見続ける実験があると聞いたとき、僕は暗がりに目が慣れて、鏡の中の自分がだんだんはっきり見えてくるだけだろうと思った。
でも実際はその逆の現象が起きているんだ。

そしてこれを実験室で実際に確かめた研究者がいる。
2010年にイタリアのウルビーノ大学のカプートという研究者がこの現象を論文にしていて、英語では『鏡の中の見知らぬ顔の錯覚』という意味の名前がついているんだ。

実験のやり方は拍子抜けするくらい単純で、暗くした部屋にハロゲン電球をひとつだけ置く。
その電球は座っている人の後ろから床を照らしていて、本人からは光源が見えないようになっている。

そして目の前の鏡に向かって、こう指示を出すんだ。

「鏡に映った自分の顔を見てください。そして自分の目を見つめ続けてください。時間は10分間です。」

使っているのは部屋の明るさと時間の指定だけで、薬も特別な装置も使っていない。
夜中の洗面所で僕らが鏡を見ている状況に、かなり近い条件なんだ。

2015年には、カプート本人も加わった別の研究チームが、ジュネーブの中高生110人に同じ手順を試している。
この論文が載ったのは、幻覚や妄想が起きることのある統合失調症という病気の専門誌なんだ。

でも集められたのは病院にかかっている子たちじゃなく、地域で暮らすごく普通の中学生と高校生だ。
そして10分が終わったあと、全員に何が見えたかをアンケートで聞いている。

いちばん多かったのは自分の顔が変形したという答えで、45.5%いた。
次に多かったのが自分ではない誰かの顔を見たという答えで27.3%、人間ではない何かを見たという子も7.3%いたんだ。

残りの20%の子も、光や色が変わるのは感じている。
終わったあとのアンケートでは、何も挙げなかった子は1人もいなかったんだ。

ただしこの4つは、いちばん強かった体験で1人ずつ振り分けたものなんだ。
顔が変形したかどうかだけを数え直すと、79%にのぼる。

僕がいちばん気になったのは、この顔の変形がどういう原理で起きているのかだ。
顔が崩れて見えるところまでは、さっきの目の慣れで説明がつく。

でも顔が崩れたあと、なぜそこに他人の顔や人でないものが入り込むのか。
見えづらくなった部分を、脳が勝手に補って埋めているのかもしれない。
そこは分かっていないまま置かれている。

なぜ鏡の怪談ばかり、こんなに多いのか

灯りをひとつだけ置いた台の上に立てられた古い金属の鏡

僕も小さいころ、合わせ鏡をしてはいけないとか、玄関の姿見の前でお辞儀をしてはいけないという話を聞いたことがある。
靴を履こうとしてかがむだけでもだめだっていう話。

当時の僕はあんまり信じていなかったけど、そういう不思議なオカルトがあるとワクワクできるから信じたい気持ちも少しくらいあった。
でも考えてみると、鏡にまつわる怖い話ってずいぶん多いと思わないかな?

そもそも暗闇が怖いという気持ちは、怪談なんかを聞かなくても昔から誰にでもある感覚なんだと僕は思う。
でもそのなかで鏡の怖い話がとくに多いのには、目の仕組みが関わっているのかもしれない。

鏡は人類がずいぶん昔から使ってきた道具で、電気がなかったころの夜は今よりずっと暗かった。
そんな暗がりで自分の顔を見つめれば、さっきの実験と同じことが起きていてもおかしくない。

でも当時の人たちは、目の細胞が信号を弱めたという知識を持ち合わせていない。
だから見たままを『鏡の中に知らない顔がいた』と、怪談や怖い話として語り継いできたんだと思う。

正面を向いていて、動かなくて、そこに自分の顔がある。
鏡は、目をサボらせる条件がいちばん揃いやすい道具なのかもしれない。

朝の洗面所で、同じことが起きない理由

明るい洗面所で歯を磨きながら視線を動かしている人

ここまでの話を、朝の洗面所に当てはめてみてほしい。

朝の僕は鏡の前で歯を磨いたり、寝ぐせを直したりしている。
そのあいだ視線は口元や髪の毛を行ったり来たりしていて、ひとつの場所に止まっていないんだ。

そして朝の洗面所は明るいから、顔の輪郭や影もはっきりしている。
明暗の差が大きいものは慣れが進みにくいので、目が動くたびに見え方はすぐ元に戻るんだ。

つまり朝の鏡では、夜中に顔を崩していた2つの条件がどちらも外れている。
だから同じ鏡の前に立っても、朝は何も起きないんだ。

逆に言えば、夜中のあの一瞬は僕らが思っているほど特別な出来事じゃない。
薄暗い場所で動かずに自分の顔を見つめた結果、目がいつもどおり慣れてしまっただけなんだ。

鏡は今日も、僕らの目の限界を正確に映し出している。
どんな照明の部屋で暮らすようになっても、目の作りが変わらないかぎり夜中の鏡は僕らを驚かせ続けるはずだ。
そして鏡の中に知らない誰かが現れる理由は、まだ誰にもわかっていないんだ。

今回も未来を覗き見れたかな?それじゃ、バイバイ!

参考にした資料

・Strange-face-in-the-mirror illusion(Giovanni B. Caputo, Perception 39巻7号, 2010年)

・Strange-Face-in-the-Mirror Illusion and Schizotypy During Adolescence(Fonseca-Pedrero ほか, Schizophrenia Bulletin, 2015年)

・The role of fixational eye movements in visual perception(Martinez-Conde, Macknik, Hubel, Nature Reviews Neuroscience 5巻, 2004年)

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