地学

エベレストの遺体放置はなぜか、下ろす人の命まで危ないからだ

頂上へ続く登山者の列を見上げる羊さんと、雪に半分埋もれた登山靴

世界一高い山、エベレスト。
初めて頂上に人が立ったのは1953年で、そのとき立ったのは2人だけだった。

今ではその頂上に、2025年までに1万3,000回以上も人が立っている。

その一方で、この山には200を超える遺体が今も残っていると考えられているんだ。
僕も小さいころ、何かのテレビとかで見たことある気がする。

その多くが下ろされないのは、下ろしに行く人の命まで危なくなる高さにあるからなんだ。

今回は、そんなエベレストに眠る人たちの話から、僕と一緒に未来を覗き見てみよう。

目次
  1. 世界一高い山なのに、エベレストには毎年たくさんの人が頂上に立つ
  2. 亡くなった人の遺体は、その多くが今も山に残っている
  3. エベレストの遺体放置はなぜ起きるのか
  4. 下ろせなかった遺体は、登山者の目印になってきた
  5. 75年後に見つかったマロリーの遺体と、まだ見つからないカメラ
  6. 頂上を目指す人の列と、山に眠る人の間で
  7. 参考にした資料

世界一高い山なのに、エベレストには毎年たくさんの人が頂上に立つ

世界一高い山と聞くと、頂上に立った人なんてほんの一握りな気がするよね。

でも実際は、2025年までにのべ13,737回、人数にすると7,563人がエベレストの頂上に立っているんだ。
1953年に立ったのが2人だったことを考えると、とんでもない数になっている。
そして2026年の春のシーズンだけでも、5月24日までに頂上に立った回数は879回になった。

結構お金も時間もかかるのに結構な数がいるんだね。

これだけの人が頂上に立てているのには、登る人を支える人たちの存在がある。
ネパールの山の民族で、登山の案内や荷運びを担うシェルパ(ネパールの山の民族で、登山の案内や荷運びを担う人。)や山で働く人たちが、登る道にロープを張ってキャンプを作っているんだ。
登る客の中には登山の経験が少ない人も多いんだけど、こうした支えがあることで頂上に立てている。

ロープに沿って頂上へ続く登山者の列を見上げる羊さん

それに加えて、酸素ボンベを使うことも高い山で体を守る支えになっている。
この酸素ボンベの使用がエベレストを商売として成り立つ登山にした、という見方をする登山家もいるんだ。
その登山家は、エベレストは近づきやすくなったけど危なさは少しも減っていない、とも書いている。

じゃあ、亡くなる人はどれくらいいるのか?
2025年までに、エベレストで亡くなった人は339人いる。
頂上に100回立つごとに、1人ほどが亡くなっている計算になるんだ。

亡くなった人の遺体は、その多くが今も山に残っている

山で亡くなった人がそのあとどうなるのか、気になる人もいると思う。

実はその多くは、今も山に残っているんだ。
エベレストには、200を超える遺体が今も残っていると考えられている。
それだけ回収が難しいんだなと思った。

遺体の多くは、雪の下や氷の割れ目の中に隠れている。
ただ温暖化で雪や氷が薄くなってきたことで、隠れていた遺体が出てくるようになっているんだ。
氷が1年に約1メートルのペースで溶けている場所もある。

でも見えているのなら、なぜ下ろさないんだろう?

エベレストの遺体放置はなぜ起きるのか

見つかっているのに下ろさないと聞くと、放っておいているように感じるかもしれない。
でも、放っておいているわけではないんだ。
遺体の多くは、下ろしに行く人の命まで危なくなる高さにある。

標高8,000mより上は、空気が薄くて酸素が足りない、長くはいられない高さで「死のゾーン(標高8,000mより上の、空気が薄く長くいられない高さ。)」と呼ばれている。
8,000mは、富士山(3,776m)を2つ重ねた高さより、まだ450mほど高いんだ。
死のゾーンでは、そこにいるだけで命を長く保てない。

しかもその高さでは、ヘリコプターが飛べない。
だから遺体は、人が担いで急な斜面を下ろすしかないんだ。
凍った遺体は、100kgを超えることもある。

雪の斜面に置かれたロープとそりのそばで空を見上げる羊さん

2024年にネパール軍が遺体を下ろしたときには、1体に最大8人が必要だった。
胸のあたりまで氷に埋まっていた遺体は、氷から出すだけで11時間かかったんだ。

朝9時に始めたとしたら、夜8時まで続く長さになる。
空気の薄い場所でそれだけの作業を続けるのがどれだけ大変か、なんとなく想像できると思う。

実際に、下ろしに行った人が命を落としたこともある。
1984年には、1979年に亡くなった女性登山家の遺体を下ろしに行ったネパールの警察の隊で、2人が落ちて亡くなっているんだ。

家族が「ほかの人の命を危険にさらしたくない」と、遺体を山に残すことを選んだ例もある。
登山者の中には、もし山で死んだら山に残してほしいと、前もって書面にしておく人もいる。
下ろせない遺体は、シェルパが祈りをささげて、岩や雪で覆うこともあるんだ。

僕は元々、下ろすのも命がけなのを知っていたから、仕方ないと思った。
回収するために登った登山でも事故が起きてることを知ってたしね。

じゃあ、下ろしたいと思う人はいないのかというと、そうではないんだ。

2024年、ネパール軍は山の清掃と一緒に、遺体を5体下ろした。
その作戦を率いた軍の少佐は、「置いていき続けたら、山は墓場になってしまう」と話している。
遺体を下ろす仕事をしてきたあるシェルパも、「家族のもとへ返すために、下ろさなければならない」という考えを持っている。

下ろすか残すかは、亡くなった人を家族に返したいという考えと、生きている人を危険にさらしたくないという考えの間で分かれているんだ。

下ろせなかった遺体は、登山者の目印になってきた

山に残った遺体の中には、30年近く、登る人が自分の位置を知るための目印として使われてきたものがあるんだ。

その遺体があるのは、エベレストの北側、チベット自治区の側の道で、標高約8,500mの洞穴のそばになる。
約8,500mは、富士山を2つ重ねた高さより950mほど高い。

1996年5月に亡くなった登山者の遺体で、履いていた緑の登山靴から「グリーンブーツ(エベレストの北側で、登山者の目印になってきた遺体の呼び名。)」と呼ばれてきた。
北側から登る人はそこに着くと、ベースキャンプ(山のふもとに置く、登山の拠点のキャンプ。)に無線で「グリーンブーツの近くにいる」と伝えてきたんだ。
そして2014年に、この遺体は道から見えにくい場所へ移された。

尾根の洞穴のそばで無線機を持って立ち止まる羊さん

道の脇の遺体を見て、気持ちが沈む登山者もいる。
僕は、目印となってるおかげで登山が成功する人も増えているという意味では、命を繋いでいる、守っていると思った。
それでもやっぱり複雑な感情だし、悲しさもある。

ここまで読んで、グリーンブーツが登る人にとってどんな存在だったかは伝わったと思う。
じゃあ、30年も目印だった人は誰だったのか?

2026年になってDNAを調べたことで、インドの国境警備隊の隊員だったと分かったと報道されている。
長い間は、同じ隊の別の隊員だと考えられていたんだ。
身元が分かったのは、亡くなった1996年から30年たってからのことになる。

インドの国境警備隊はこの遺体を山から下ろす計画を立てて、2026年に引き受ける専門の隊を募った。
計画には、エベレストに何度も登った経験のあるネパールのシェルパが、少なくとも6人必要とされている。
さらに下ろすには、中国の許可と天気がそろう必要がある。

遺体を下ろせたかどうかは、まだ分かっていない。

75年後に見つかったマロリーの遺体と、まだ見つからないカメラ

エベレストには、ずっと昔から山に眠っている人の話もある。
1924年に頂上を目指したまま消えた、イギリスのジョージ・マロリー(1924年にエベレストの頂上を目指して消えたイギリスの登山家。)と、相棒のアンドリュー・アーヴィン(1924年にマロリーと共に消えたイギリスの登山家。)の話だ。

僕がこの話に触れたのは、神々の山嶺っていう漫画を読んだのがきっかけ。
マロリーもその時知った。

2人が最後に姿を見られたのは、1924年6月8日、頂上に向かっているところだった。
1924年は、エベレストの頂上に初めて人が立った1953年より29年前になる。

1999年、マロリーの遺体がエベレストの北側の斜面で見つかった。
消えてから75年後のことだ。
遺体の服には「G.L. Mallory」の名札が付いていて、そばからは高度計や手紙が見つかっている。

でも、カメラは見つからなかったんだ。

2人はコダックの小型カメラを持って登ったと考えられていて、そのカメラは今もまだ見つかっていない。
カメラの中のフィルムには、2人が頂上に立ったかどうかを決める、ただ1つの証拠が写っているかもしれない。

雪の斜面を見上げて、古い小型カメラを思い浮かべる羊さん

もし頂上に立っていたなら、1953年より29年早く、人がエベレストの頂上に立っていたことになる。
これがどれだけ大きな話か、わかってもらえると思う。

2024年9月には、アーヴィンのものとみられる足が、登山靴と靴下に包まれたまま北側の氷河で見つかった。
靴下には「A.C. IRVINE」と縫い付けられた赤い名札があったんだ。

見つけた隊の1人は、カメラも近くにあるかもしれないと考えている。
一方で、カメラが見つかっても、使える写真が残っている見込みはとても小さいと見る専門家もいる。

結局、2人が頂上に立ったのかどうかは、まだ分かっていないんだ。

頂上を目指す人の列と、山に眠る人の間で

2026年の春のシーズンだけでも、5月24日までに879回も人がエベレストの頂上に立った。
その同じ山に、200を超える遺体が残っていると考えられている。
雪や氷が薄くなって、隠れていた遺体が出てくるようにもなっている。

グリーンブーツを下ろす計画は立てられたけど、下ろせたかはまだ分からない。
マロリーとアーヴィンのカメラも、まだ山のどこかにある。

ここまで読んでくれた人なら、この山がただ高いだけの場所じゃないことはわかってもらえたと思う。
僕はというと、登りたくない!寒そう!でもちょっと登ってみたい。

エベレストは今も登る人を迎えながら、眠る人を少しずつ見せてもいて、この先なにが見つかるかは誰にも分からない。

今回も未来を覗き見れたかな?それじゃ、バイバイ!

参考にした資料

・Hillary and Tenzing reach summit of Everest(NZ History, Manatū Taonga — Ministry for Culture and Heritage)

・Everest by the Numbers: 2026 Edition(Alan Arnette, 2026年1月26日。The Himalayan Database の集計)

・Everest records busiest spring climbing season on record(Roshan Sedhai, Everest Chronicle, 2026年5月24日)

・The Everest Moral Dilemma(Mark Synnott, National Geographic, 2015年4月21日)

・The Oxygen Illusion(Anatoli Boukreev, American Alpine Journal, 1997)

・India eyes “high risk” Mount Everest mission to recover frozen body of climber “Green Boots” after 30 years(CBS News, 2026年6月23日)

・India to retrieve Everest ‘Green Boots’ climber after identifying body(The Business Standard / AFP, 2026年6月24日)

・As ice melts, Everest’s ‘death zone’ gives up its ghosts(Gulf News / AFP, 2024年6月27日)

・Removing Dead Bodies from Mount Everest Is Dangerous and Expensive. Here’s Why.(Ben Ayers・Tulsi Rauniyar, Outside, 2024年5月6日)

・India seeking to recover the body of an Everest climber known as ‘Green Boots’(AP, WTOP, 2026年7月)

・Looking Back: In 1979, the First Woman Dies on Everest(ExplorersWeb, 2026年3月28日)

・A High-Risk Mission to Retrieve ‘Green Boots’ from Everest(Kris Annapurna, ExplorersWeb, 2026年)

・エベレスト登山者の遺体発見が増加、温暖化で氷雪解け(CNN.co.jp, 2019年3月23日)

・2019年春のエベレスト登頂者数、史上最多の885人 死者は11人に(AFPBB News, 2019年6月19日)

・エベレストの有名遺体「グリーンブーツ」の身元がDNA鑑定で判明(GIGAZINE, 2026年7月3日)

・EXCLUSIVE: India plans mission to recover ‘Green Boots’ Lance Naik Dorje Morup from Everest(The Tribune, 2026年6月)

・Exclusive: Remains of Andrew ‘Sandy’ Irvine believed to have been found on Everest(National Geographic, 2024年10月11日)

・Will the discovery of Sandy Irvine lead to solving Everest’s greatest mystery?(National Geographic, 2024年10月17日)

・Dearest George (May 5, 1999)(Liesl Clark, NOVA Online「Lost on Everest」, PBS)

・Mallory Reported Found (May 3, 1999)(NOVA Online「Lost on Everest」, PBS)

・富士山(静岡県)

・Explainer: The millions needed to retrieve the dead from Mt Everest(Citizen Digital, 2024年5月30日)

・Remains of Andrew “Sandy” Irvine believed to have been found(National Geographic, Business Wire, 2024年10月10日)

島がまるごと火口になっている青ヶ島の二重カルデラの正体

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