地学

科学が進んだ今も世界に未踏峰の山が残る、その理由の正体

雲の上にそびえる白い山と、山を見上げる羊さん

世界でいちばん高い山のエベレストには、これまで何度も人が登っている。
それなのに、それより低い山の中に、まだ誰も頂上に立っていない山がある。
僕はこれを知ったとき、なんで低いほうの山が残っているんだろうって不思議に思ったんだ。

エベレストの頂上には、1953年に人が立っている。
1953年といえば、今から70年以上も前の話なんだ。
でも科学が進んだ今も、頂上にまだ誰も立っていない山が世界には残っている。

こういう山を、未踏峰(みとうほう)と呼ぶ。
そしてその中でいちばん高いのが、ガンカー・プンスム(7,570m)という山なんだ。
場所は、ブータンと中国南西部にあるチベット自治区との境になる。

ガンカー・プンスムは、エベレストより約1,300m低い。
ただ、その差の約1,300mだけでも富士山(3,776m)の3分の1くらいあるんだ。
世界最高峰より低いと言っても、低い山じゃないのは分かってもらえるよね。

そして調べてみると、未踏峰が残っている理由は山ごとに違うんだ。

それじゃあ、僕と一緒に、まだ誰も立っていない頂上から未来を覗き見てみよう。

目次
  1. 未踏峰は、頂上にまだ誰も立ったことがない山
  2. 未踏峰は現在も、世界のあちこちに残っている
  3. 世界の未踏峰の山には、どんなものがあるのか
    1. 世界でいちばん高い未踏峰ガンカー・プンスムは、国が登山を閉じた山
    2. 頂上のすぐ手前で引き返したマチャプチャレは、神々の山として禁じられた
    3. ムチュ・チッシュは、氷と急な斜面に守られて2024年まで未踏だった
    4. 登山が許されたプンギには、10年誰も頂上に届かなかった
    5. 日本アルプス最後の未踏峰と信じられた剱岳には、昔の錫杖があった
  4. 未踏峰が残るのはなぜか、理由は3つの種類に分かれる
  5. 未踏峰の頂上は、まだ誰も見ていない景色のまま
  6. 参考にした資料

未踏峰は、頂上にまだ誰も立ったことがない山

頂上に旗と足跡がある高い山と、足跡のない頂上の低い山を見比べる羊さん

世界には、頂上にまだ一度も人が立ったことがない山がある。
そういう山のことを、未踏峰と呼んでいるんだ。

ちなみに「未踏」は、まだ誰も足を踏み入れたことがない、という意味の言葉だ。
なので、未踏峰かどうかは山の高さで決まるわけじゃない。
頂上に人が立ったかどうか、それだけで決まるんだ。

例えば、エベレストは世界でいちばん高い山だよね。
でも頂上に人が立ったので、もう未踏峰ではないんだ。
逆に言えば、どれだけ高い山でも頂上に人が立てば未踏峰ではなくなる。

ただ、山の場所も高さも分かっている今の時代に、本当にそんな山が残っているのか気になるよね。

未踏峰は現在も、世界のあちこちに残っている

地図のない谷で山を探して立ち止まる登山隊

実は、未踏峰は今もちゃんとある。
高さが分かっている山でも、頂上に人が立ったかどうかは人が行かないと決まらないんだ。

例えばガンカー・プンスムは、高さが7,570mと分かっている。
それでも頂上には、まだ誰も立っていないんだ。

しかもガンカー・プンスムのまわりは、1980年代の時点で地図がほとんどない土地だった。
ほぼ誰も調べていない場所でもあったんだ。

そして1980年代には、ガンカー・プンスムに向かったアメリカの隊がいる。
ところがこの隊は、山そのものを見つけられなかった。
山が見つからないなんて、ちょっと信じられないよね。

ほかの国の山にも、それぞれの事情があるんだ。
例えばキルギスやロシアの山々は、ソ連が崩れたあと、1990年代の初めまで外の国の人が入りにくかった。

それにイギリスの登山家は、まだ登られていない山はたくさんあるのに一覧はなく、自分で探すしかないと書いている。
僕は、こんなにデカい山がいっぱいあって、その上未踏なのも不思議だと思った。

じゃあ、どんな山が未踏峰として残っているんだろう?

世界の未踏峰の山には、どんなものがあるのか

未踏峰には、今も未踏の山もあれば、最近まで未踏だった山もある。
しかも場所も事情も、山ごとにかなり違うんだ。

世界でいちばん高い未踏峰ガンカー・プンスムは、国が登山を閉じた山

ガンカー・プンスムの高さを、富士山を2つ重ねた高さと比べた図

ガンカー・プンスムは、ブータンと中国南西部にあるチベット自治区との境の上にある山だ。
標高は7,570mで、富士山を2つ重ねた高さ(7,552m)より、まだ18m高いんだ。

僕は普段、富士山が見える静岡に住んでる。
でもあの富士山を2つ重ねてもまだ高いって、想像が逆にできないレベルなんだな、と思った。

1980年代には、外国の4つの隊がガンカー・プンスムに挑んだ。
でも、どの隊も頂上には届かなかったんだ。

そしてブータンは1994年から、6,000mより高い山への登山を閉じている。
6,000mといえば、富士山の1.6倍くらいの高さになる。

ブータンが山を閉じたのは、信仰のためなんだ。
近くの国で登山が山に何をもたらしたかを見たうえで、自分の国の山は閉じると決めた。
だからガンカー・プンスムも、6,000mより高いので、ブータンの側からは登れない。

じゃあ、反対のチベット自治区の側からなら登れるのか?
実は日本山岳会の隊が、中国の登山協会からチベット自治区の側から登る許可を取っていたんだ。

ところが中国の登山協会から、ある政治的な問題で許可を延期しなければならない、と告げられた。
問題になっていたのは、ブータンと中国の国境だった。

そこで日本山岳会の隊は代わりに、ガンカー・プンスムより35mだけ低い、すぐ隣の7,535mの峰をめざした。
そして1999年、隊はその峰に初めて登頂したんだ。

つまり1999年の時点で、ブータンの側は信仰のために閉じられていた。
そしてチベット自治区の側も、国境の問題で許可が止まっていたんだ。
両方の側で、頂上への道が止まっていたことになるよね。

ブータンのドチュ・ラ峠から見たガンカー・プンスム
写真:dhaag23/Wikimedia Commons(CC BY 2.0)(縮小して使用)

頂上のすぐ手前で引き返したマチャプチャレは、神々の山として禁じられた

谷から見上げる、登山が禁じられたマチャプチャレ

マチャプチャレは、ネパールにある山だ。
そしてイギリスの隊がこの山の頂上に向かったけど、頂上のすぐ手前で引き返した。
吹雪がやまず、登ってきた足跡も消えてしまったんだ。

それに最後の区間の登りが難しかったことも、理由の1つだった。
この登山の記録を書いた隊員は、「マチャプチャレの女神は汚されないままであるべきだ」という気持ちを書き残している。

その後ネパールは1962年に、マチャプチャレへの登山を禁じた。
禁じたのは、表向きは山の神聖さを守るためなんだ。

ただ、あの隊の隊長がのちにカトマンズのイギリス大使館で働き、当時の政府に山を閉じたままにするよう説いたという話もある。
でも、この話は確かではない。

僕は梅里雪山やカイラスみたいに、神聖な山だという理由で入山制限が掛かっている山を、ほかにも知っている。
じゃあ、マチャプチャレはずっと禁止のままなのか?

マチャプチャレのある地元の自治体は、2022年の時点で、禁止を解いて登れるようにしたいと考えていた。
ただ、本当に解かれるかどうかはまだ分からないから、この先が気になるよね。

ムチュ・チッシュは、氷と急な斜面に守られて2024年まで未踏だった

パキスタンのムチュ・チッシュ
Transient73/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)(縮小して使用)

ムチュ・チッシュは、パキスタンのカラコルム山脈にある山だ。
標高は7,453mで、ガンカー・プンスムより120mほど低いだけなんだ。
そして許可を取って登れる山の中では、世界でいちばん高い未踏峰だと言われることがあった。

頂上までの登りには、急な斜面とどこまでも続く氷があった。
その氷の割れ目をよけながら、道を探して登る必要があったんだ。
さらに下りでは、山から雪崩が落ちてきた。

チェコの隊は前にも挑んでいて、2023年には約7,200mまで登った。
これは頂上まで、あと250mほどの場所なんだ。
でも、チェコの隊はそのとき頂上に届かなかった。

そして2024年、チェコの3人の登山家がムチュ・チッシュの頂上に初めて立った。
ただ、ムチュ・チッシュは独立した山というより、まわりの山並みの中の小さな峰だという見方もあるんだ。
つまり、どれを1つの山と数えるかで、未踏峰の見方も変わるのかもしれない。

じゃあ、登られたらもう未踏峰じゃなくなるのか?
そう、頂上に人が立ったので、ムチュ・チッシュは今は未踏峰ではないんだ。
未踏峰が何で決まるかを思い出すと、分かりやすいよね。

登山が許されたプンギには、10年誰も頂上に届かなかった

プンギは、ネパールのアンナプルナ地域にある山だ。
でもこの山は、登山が許されてから10年、頂上に誰も立っていなかったんだ。

頂上につながる尾根については、情報が少なかった。
それに前に挑んだ隊は、頂上の手前で引き返している。
空気が薄くなって頭痛や吐き気が出る、高山病のためだったんだ。

2024年、プンギに初めて登頂したのは、大学の山岳部の学生5人だった。
5人は、日本山岳会学生部の遠征隊として集まっていた。
学生たちが選んだのは、「未踏峰だけど、前に挑んだ隊がいて、情報が少しはある山」だった。

じゃあ、登山が許されていても未踏のまま残ることはあるのか?
実際プンギは、許されてから10年、頂上に誰も立たなかったよね。

日本アルプス最後の未踏峰と信じられた剱岳には、昔の錫杖があった

剱岳の頂上で見つかった、古い錫杖の頭と鉄の剣

剱岳は、富山県(昔の越中)にある山だ。
1907年の当時、日本アルプスのほかの山には、ほとんど人の足跡がついていた。
でも剱岳だけは、昔から誰も登ったことのない山だと信じられていたんだ。

江戸時代から明治時代にかけて、剱岳は地元の人々に地獄の山・針の山として畏れられていた。
登ってはいけない山などとも信じられていたんだ。

そして1907年、国の地図を作る役所の測量隊が剱岳の頂上に立った。
これはエベレストの頂上に人が立った1953年より、46年も前のことになる。

測量隊は頂上で、銅でできた錫杖(しゃくじょう)の頭と鉄の剣を見つけた。
錫杖は僧が持ち歩く杖で、頭に金属の輪が付いている。
そして錫杖の頭も鉄の剣も、山で修行する僧が山に入るときに持っていく道具なんだ。

つまり測量隊より前に、山で修行する僧が剱岳の頂上に登っていた。
ちなみに錫杖の頭が作られたのは、奈良時代の終わりから平安時代の初めと推定されている。
今から1,200年ほど前なんだ。

測量隊よりずっと前に登った人がいるってことだもんね、不思議だよね。

じゃあ、今の未踏峰も、実は誰かが登っているのか?
それは、まだ分かっていないんだ。
でも僕は、実は登ったことがないと言われてる山も、実は誰かが登っているかもしれないって思うと少しわくわくする。

未踏峰が残るのはなぜか、理由は3つの種類に分かれる

5つの山と、イギリスの登山家の見方を合わせると、未踏峰が残る理由は3つの種類に分けられる。

1つ目は、登ってはいけない山だ。
ガンカー・プンスムとマチャプチャレは、山が難しいだけじゃない。
国が登山を閉じたり禁じたりしてきたことで、頂上に人が立っていないんだ。

ただ、登山が許されても未踏のまま残ることがある。
プンギは、登山が許されたあと10年、頂上に誰も立たなかったよね。

2つ目は、登るのがとても難しい山だ。
イギリスの登山家は、技術的にとても難しく危険で、近づき方も複雑な山を未踏峰の1つの種類とし、その数は少ないとしている。
例えばムチュ・チッシュは、急な斜面と氷に守られて2024年まで頂上に誰も立っていなかった。

3つ目は、まだ誰も挑んでいない山だ。
同じ登山家は、ただ誰もそこへ行って試していないだけの山も、1つの種類だとしている。

そしてこの登山家は、キルギスやロシアで登られていない山をたくさん見たという。
その理由を、1990年代の初めまで外の国の人が入りにくかったからだと結びつけているんだ。

それに剱岳のように、未踏と信じられていても実は人が登っていた山もある。
だから未踏峰は、「頂上に人が立った記録がない山」とも言えるんだ。
そう考えると、未踏峰の見え方が少し変わってこない?

じゃあ、この先、未踏峰はなくなっていくんだろうか?

未踏峰の頂上は、まだ誰も見ていない景色のまま

ガンカー・プンスムは、ブータンが山を閉じている間は、ブータンの側からは登れない。
一方でマチャプチャレは、2022年の時点で、地元が禁止を解きたいと考えていた。
でも、本当に解かれるかはまだ分からないんだ。

そしてムチュ・チッシュもプンギも、2024年に初めて登られた。
ただ、まとめた一覧がないので、未踏峰がいくつ残っているかははっきりしないんだ。

ロマン的に言えば未踏のままでいいと思う。
ただ科学的に言えば登りたい、という探求心はあるよね。

未踏峰は今も地図の上に残っていて、この先どうなるかは、まだ誰にも分からない。

今回も未来を覗き見れたかな?それじゃ、バイバイ!

参考にした資料

・A winter’s tale(Department of Tourism, Bhutan) [S1]

・Kingdom of the Thunder Dragon(S. K. Berry, The Himalayan Journal 44, 1988) [S2]

・Gankarpunzum & First Ascent of Liankang Kangri(Tsuguyasu Itami, 日本山岳会) [S3]

・New height of Mt. Everest(Nepal Mountain Academy, 2020年12月8日) [S5]

・富士山(静岡県) [S6]

・Hillary and Tenzing reach summit of Everest(NZ History, Manatū Taonga — Ministry for Culture and Heritage) [S7]

・Machhapuchhare(C. G. Wylie, The Himalayan Journal 20, 1957) [S8]

・To open Machapuchre for mountaineering or not(Nepali Times, 2022年10月22日) [S9]

・報告書 日本山岳会学生部プンギ遠征隊2024(日本山岳会) [S12]

・「剣岳信仰」をめぐる若干の考察(米原寛, 富山県) [S13]

・剱岳測量100年記念事業(国土地理院 北陸地方測量部) [S14]

・チベット自治区(コトバンク:世界大百科事典 第2版・ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典) [S16]

・How to find an unclimbed mountain(Tim Moss, British Mountaineering Council) [S17]

・Muchu Chhish, First Ascent(Zdeněk Hák, American Alpine Journal, 2025) [S18]

・First Ascent of Muchu Chhish: Full Report(ExplorersWeb, 2024年) [S19]

・未踏(コトバンク:デジタル大辞泉) [S20]

島がまるごと火口になっている青ヶ島の二重カルデラの正体

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