【高知旅行】龍河洞を1時間歩いた結果、涼しいのに汗だくになった理由

地球

夏の高知は、とにかく暑い。

そんな中で「鍾乳洞は涼しいらしい」と聞いたら、行きたくなるよね。
洞窟の中は一年中15℃くらい。
天然のクーラーだと、どのサイトにも書いてある。

僕もそれを期待して、高知県香美市にある龍河洞へ向かった。

そして、確かに入り口は涼しかった。
なのに、洞窟を出る頃には汗だくになっていた。

この二つは矛盾していない。
むしろ、洞窟という場所の仕組みを知ると、どちらも当たり前のことだったと分かることなんだ。

そもそも、人間が一人もいなかった頃から、あの暗がりの中ではどんな時間が流れていたんだろう。

その理由をひとつずつ拾い上げながら、洞窟の底に眠る未来を覗き見に行こう。

1億7500万年かけて水がつくった洞窟

1億7500万年かけて水がつくった洞窟

龍河洞は、高知県香美市にある鍾乳洞だ。

岩手県の龍泉洞、山口県の秋芳洞と並んで、日本三大鍾乳洞のひとつに数えられている。

1934年には国の天然記念物と史跡の両方に指定された。

2007年には日本の地質百選にも選ばれている。
景色が美しいからというだけではなく、地質学的に見る価値のある場所として認められているということだね。

全長はおよそ4km。そのうち観光コースとして歩けるのは約1kmだ。

残りは、予約制の冒険コースか、あるいは今も人が立ち入らない領域として残されている。

鍾乳洞は、石灰岩でできた土地にしか生まれない。

大昔の海で、サンゴや貝殻などの炭酸カルシウムが積み重なってできたのが石灰岩だ。
そこに、二酸化炭素を溶かし込んだ雨水がしみ込んでいく。

水は少しずつ石灰岩を溶かし、隙間を広げ、やがて人が歩けるほどの空間をつくる。

龍河洞の場合、その作業に1億7500万年かかった。

弥生人が住んでいた痕跡

面白いのは、この洞窟に人が住んでいた記録が残っていることだ。

出口付近から、弥生時代の土器や石器が見つかっている。

中でも有名なのが「神の壺」と呼ばれるもの。
約2000年前に使われていた土器が、長い年月をかけて鍾乳石に取り込まれ、岩と一体化してしまったものだ。

その隣には、1937年に「同じことが本当に起きるのか」を確かめるために置かれた壺がある。

鍾乳石と一体化した弥生時代の土器「神の壺」

実験開始から、すでに90年近く。ゆっくりと石灰分に包まれつつあるその壺は、今も結果が出ていない。

1937年にこの壺を置いた人は、自分が生きているうちに答えが出ないことを、たぶん分かっていたよね。それでも置いたというのが、なんだかいいなと思うんだ。

チケット売り場の手前で、もう涼しい

龍河洞の入口。冷たい空気が流れ出している

現地に着いてまず驚いたのが、洞窟に入る前の時点だった。

チケット売り場の手前あたりで、すでに空気がひんやりしている。

寒いと感じるくらいだ。洞窟の入口から冷たい空気が流れ出しているんだね。

ここで僕は完全に油断した。

「これは涼しい1時間になるぞ」と思ったんだ。

ちなみに、お土産屋さんがかなりの数ある。

クジラのナイフのような、ここでしか見ないものも売っていた。
入る前から見どころがあるタイプの観光地だ。

そしてここには昔から続く鍛冶屋があり、そこでは昔と同じ製法で包丁を作っているんだとか。

実際に歩いたら1時間かかった

多くのサイトには「所要時間は約40分」と書かれているが、僕は1時間かかった。

これは道に迷ったからではなく、観光コースは一本道だ。

単純に、思っていたよりも歩きごたえがあった。

差が生まれた理由ははっきりしている。
公表されている40分は、立ち止まらずに歩き続けた場合の数字だからだ。

実際には、鍾乳石の前で足を止め、カメラを構え、階段の途中で息を整えることになる。
その一つひとつは短いけれど、積み上げると20分の差になった。

旅程を組むなら40分ではなく1時間を見ておく方が、あとが楽だと思う。

「しんどい坂」を登った先で、コウモリに囲まれた

龍河洞の急な階段「しんどい坂」

洞内には、そのまましんどい坂と名付けられた階段がある。

名前で警告してくれているのは親切だと思う。
龍河洞は平坦な洞窟ではなく、高低差のある階段を登り続けることになる。
体感としては、ビルの20階分くらいを登った感覚だった。

しかも、天井が低い場所では屈んで進む必要がある。
登る、屈む、また登る。
この繰り返しで、観光というより軽い登山に近い時間帯があった。

登り切ると休憩所があって、扇風機が置いてあった。

涼しいはずの洞窟に、扇風機。この時点で、僕は自分の予想が外れていたことに気づき始めていた。

涼しいはずの洞内に置かれた扇風機

その休憩所で座っていたときだ。

何かが飛び始めた。コウモリだ。

そのまま先に進むと広い空間に出て、そこではコウモリの鳴き声が反響していた。

龍河洞にコウモリが生息していること自体は、公式にも紹介されていることなんだけど、このコウモリたちは人に危害を加えることはない。

ただ、汗をかいて息を整えているところへ鳴き声が降ってくる体験は、写真では伝わらないものだった。

ここは観光コースだけど、彼らにとってはずっと前からここが家なんだよね。
途中から、お邪魔しているのは僕の方なのかもしれないと思い始めていた。

洞内は電波が届かないので、この時のメモは後から記憶を頼りに書いている。

なぜ15℃なのに汗をかくのか

龍河洞の洞内温度は、年間を通しておよそ15℃とされている。

僕が行ったときに道中で見つけた温度計は19℃くらいを指していた。
いずれにせよ、外の猛暑と比べれば十分に涼しい数字だ。

それなのに、なぜ汗が止まらなかったのか。
理由は三つあって、どれも言われてみれば納得のいくものだった。

湿度が高いと、汗は蒸発しない

一つ目は湿度だ。

洞窟の中は、水が滴るほど湿っている。湿度はほぼ100%に近い状態だ。

人間の体が汗で涼しくなるのは、汗が蒸発するときに熱を奪っていく。
逆に言えば、蒸発しなければ涼しくならない。

湿度が高すぎる空間では、汗はただ肌の上に残り続ける。
乾かない洗濯物と同じだと思ってもらえばいい。

気温と体感温度は別物だって、頭では知っていたけど、それを体で思い知らされる場所だった。

登っている間、体は熱をつくり続ける

二つ目は、単純に運動しているからだ。

ビル20階分の階段を登れば、体は熱を生み出す。

外気温が15℃でも、自分の内側から温まっていく。

洞窟が涼しいという情報は、要するに「じっと立っていた場合」の話なんだね。
階段を登り続ける前提にはなっていない。

洞窟の中には、人がいる

三つ目は、ちょっと想像しづらいかもしれない。

福島県にあるあぶくま洞を1年かけて調べた研究では、洞内の気温に入洞者の影響がはっきり出ていた。

そして、一日の入洞者数が最大になる8月中旬に、日最低気温と日最高気温が夏のピークに達したことが報告されている。

つまり、涼みに来た人間そのものが、洞窟をわずかに温めている。

夏に思ったより涼しくないと感じたとき、その原因の一部は僕らにあるのかもしれないんだ。
ちょっと申し訳ない気持ちになるよね。

鍾乳洞の温度は、その土地の年平均気温で決まる

ところで、洞窟は一年中15℃と紹介されることが多いけれど、これは正確ではない。

洞窟内部の温度は、その洞窟がある周辺の年平均気温に、ほぼ一致する。

太陽の影響が届かない地下では、季節による温度変化が打ち消される。
夏の暑さと冬の寒さが岩盤の中でならされて、その土地の平均値に落ち着くんだ。

全国の鍾乳洞を並べるとよくわかる

実際に数字を並べてみると、きれいに傾向が出る。

鍾乳洞所在地洞内温度
日原鍾乳洞東京・奥多摩約11℃
大滝鍾乳洞岐阜・郡上15℃
龍河洞高知・香美約15℃
稲積水中鍾乳洞大分16℃

見事に、北の山間部にあるほど低く、南に行くほど高くなっているのが分かるかな。

「鍾乳洞は15℃」ではなく、「その土地の年平均気温がそのまま地下に保存されている」というのが実際のところだ。

洞窟は、天然のクーラーというより、天然の記録装置に近い。そう考えると、ちょっと見え方が変わってこないだろうか。

僕らが毎年「今年の夏は暑い」と騒いでいる間も、地面の下はその平均を黙々と握っている。そう思うと、洞窟の温度計はその土地の記憶を読み上げているような気もしてくる。

富士山の氷穴で震えた話

富士山麓の鳴沢氷穴に残る氷

ここで、比較したい場所がある。

以前、富士山のふもとにある鳴沢氷穴と富岳風穴に行ったことがある。

こちらは、はっきり寒かった。

洞内の平均気温は3度。夏に十数分いるだけで、冷蔵庫に入っているような気分になる。

昭和初期までは、実際に蚕の卵を貯蔵する天然の冷蔵庫として使われていた。

同じ天然記念物の洞窟なのに、龍河洞との差は10℃以上。ここまで開くものかと思うよね。

溶岩がつくった洞窟は、涼しさの仕組みがちがう

この差が生まれるのは、洞窟のできかたがまったく違うからだ。

龍河洞は、水が石灰岩を溶かしてつくった鍾乳洞だった。

一方の富岳風穴は、富士山から流れ出た溶岩の表面が先に固まり、内側の溶岩が流れ去ったあとの空洞だ。玄武岩でできた溶岩洞窟だね。

溶岩洞窟の中には、冬に流れ込んだ冷たい空気が底に溜まり、夏になっても抜けにくい構造を持つものがある。

冷気が居座り続けるため、年平均気温よりもさらに低い温度が保たれるわけだ。

同じ「涼しい洞窟」でも、龍河洞は土地の平均気温を保存していて、氷穴は冬の冷気を閉じ込めている。

僕はずっと、どちらも「洞窟」という一つの言葉で括っていたけれど、あの二つは生まれも育ちも別の場所だったんだね。

涼しさに種類がある、というのはそういうこと。次に洞窟へ行くときは、その涼しさがどっち由来なのか考えてみてほしい。

涼むためではなく、地球の時間を見に行く場所

涼むためではなく、地球の時間を見に行く場所

正直に言うと、避暑を目的に龍河洞へ行くと、少し裏切られると思う。

涼しい空気の中で、汗をかきながら階段を登ることになるからだ。

歩きやすい靴で行くこと、40分ではなく1時間を見ておくことを、経験者としておすすめしておく。

それでも行く価値があるのは、あの空間が1億7500万年分の水の仕事だからだ。

1cmの鍾乳石が育つのに100年かかると言われている。
僕が屈んで通り抜けた天井は、気が遠くなるほどの時間をかけてそこにあった。

弥生人が壺を置き、1937年の誰かが実験を始め、今も結果が出ていない。

洞窟の中では、時間の流れる速さが地上と違っている。

そして今日も、洞内のどこかで水は石灰岩を溶かし続けている。
僕らが見た龍河洞は途中経過でしかなくて、あの空間は今この瞬間も、まだ誰も見たことのない未来の形へ向かって育っているんだ。

今回も未来を覗き見れたかな?それじゃ、バイバイ!

参考にした資料

・龍河洞(香美市公式ホームページ)
 https://www.city.kami.lg.jp/map/ryugado.html

・観光鍾乳洞における気候特性(季刊地理学 51巻3号, 1999年)
 https://doi.org/10.5190/tga.51.188

・富岳風穴(富岳風穴・鳴沢氷穴 公式サイト)
 https://www.mtfuji-cave.com/contents/wind_cave/

【高知旅行】龍河洞を1時間歩いた結果、涼しいのに汗だくになった理由の次は、うるう秒はなぜ廃止されるのか、僕らは地球より機械を選んだ

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