僕は絵を見るのが好きなんだけど、今回の記事は画家モネのことについて。
モネの絵は、光の当たり方や水面の揺らぎの表現が独特で、実物を見るたびに「この人の目には、世界がどう映っていたんだろう」と思ってしまう。
そのモネが実際に見ていた景色を再現した庭が、日本にあるのを知っているかな?
しかも場所は高知。そう聞いたら、行くしかないよね。
というわけで真夏の高知、北川村にあるモネの庭に行ってきた。
目的はもちろん、モネが見ていた景色をこの目で見ること。
……のはずだったのだけれど、気づけば僕は、庭の生き物ばかり追いかけていた。
今回はその顛末を追いながら、未来を覗き見に行こう。
フランス国外で、ここだけが名乗れる庭
まず、なぜ高知にモネの庭があるのか。
北川村にあるモネの庭マルモッタンは、モネが晩年を過ごしたフランス・ジヴェルニーの庭をモデルに作られた庭園なんだ。
面白いのは、このモネの庭という名称、本家フランス側が長く門外不出としてきたもので、フランス国外で使用を許可されているのはここだけだという点。
ジヴェルニーとの交流を経て、モネの庭園を管理する財団から正式に名称の使用が認められたんだ。
園内は3つのゾーンに分かれている。
モネの代表作、睡蓮の舞台を再現した水の庭、色とりどりの花が咲き乱れる花の庭、そしてモネがルノワールと旅したイタリアの光景を再現したボルディゲラの庭。
絵と同じ角度に立つと、見えてくるもの

実際に歩いてみて感心したのが、園内のところどころにモネの絵が設置されていることだった。
しかもただ飾ってあるわけじゃないんだ。
その絵が描かれた場所に、描かれた角度で置いてある。
だから絵の前に立って角度を合わせると、「ああ、モネはここに立って、この景色を見ていたのか」というのが直感的にわかる。
これ、モネをよく知らない人でも楽しめる、かなり良い仕掛けだと思う。
絵画好きとしては「まさにこれが見たかった」という体験だったし、絵に詳しくない人でも「この絵、目の前の景色じゃん」と気づける。
美術館で解説文を読むより、よっぽどふに落ちるんじゃないかな。
ゆずのソフトクリームと、店員さんがくれた氷

水の庭を半分ほど回って、ボルディゲラの庭へ。
この庭の中にリヴィエラの小屋というカフェがあったので、ゆずのソフトクリーム(450円)を食べた。
北川村や近辺にあるはゆずの名産地として知られていて、フランスへの輸出もしている土地なんだ。
そのゆずソフトは酸味がしっかりしていて、ピューレも入っていて美味しかった。
ただ、正直に言うとこの日、めちゃくちゃ暑かった。
夏の高知を舐めていた。
ソフトを食べながら暑さにやられていたら、お店の人がビニール袋に氷を入れて「これ、持っていきなよ」と渡してくれた。
これが本当にありがたくて、後半の散策がだいぶ楽になった。
そうしてもらった氷を片手に、ボルディゲラの庭の残りを回って水の庭へ戻ろうとしていたときに、思わぬ出会いがあった。
木の幹にいた、黒くて硬そうな虫
木の幹に、黒くて硬そうな大きな虫がいたんだ。
先に見つけた別の来園者の家族が、スマホで写真を撮ってAIに聞いていた。
「カブトムシの仲間です」という答えが聞こえてきて、その人たちはそのまま納得して去っていった。
でも、僕はどうも引っかかった。
近づいて見てみると、体の平べったさ、脚の付き方、そして尾の先にある突起の形。
どう見てもカブトムシではない。というか、これゴキブリの形だ。
調べたら、案の定「オオゴキブリ」だった。
名前を聞くとギョッとするけれど、こいつは家に出るクロゴキブリとはまったく別の生き物なんだ。
森林の朽木の中で暮らしていて、家屋に侵入することは基本的にない。
朽木を食べて分解する、いわば森の掃除屋のような存在で、生態系にとっては欠かせない役割を担っている。
しかも動きが緩慢で、どっしり構えている。
全身を覆う硬い甲殻とトゲのある脚は、確かにパッと見ると甲虫っぽい。
AIが「カブトムシの仲間」と答えたのも、まあ無理はない見た目ではある。
実際、カブトムシのメスを縦に引き伸ばしたような姿と表現している専門家もいるくらいだからね。
AIに聞けば何でもすぐわかる時代だけれど、答えが返ってきた後に自分の目で確かめてみると、案外違うものが見えてくる。
そんなことを、真夏の庭で思った。
折り返した先で、季節が変わっていた

花の庭へ向かう前、水の庭を折り返して後半のエリアを歩いていたときのこと。
ふと視界に入った一角が、明らかに周りと色が違った。
木々の葉が赤やオレンジに染まっていて、そこだけ切り取ったように秋になっている。
真夏の、汗だくで歩いている最中にこれを見ると、なかなか不思議な感覚になる。
庭園というのは季節ごとに違う顔を見せるものだけれど、まさか同じ日の同じ庭で二つの季節に出会うとは思わなかった。
この水の庭では、トンボもよく見かけた。
細身で黒っぽいイトトンボのような一匹、全身が瑠璃色で腹の後ろ側がふっくらした一匹、そしてオニヤンマのようなフォルムだけれど、それよりはずっと小さい一匹。
最後の一匹は、たぶんサナエトンボの仲間だと思う。
オニヤンマに似ているけれど別種のグループで、コオニヤンマやタイワンウチワヤンマといった種類がこれにあたるんだ。
ちなみにタイワンウチワヤンマはもともと四国南部や九州にしかいなかったのが、温暖化の影響で近年どんどん北上している種でね。
高知はまさに、この種が古くから分布していた土地でもある。
とはいえ、僕の観察と記憶だけでは種の断定まではできない。
トンボは似た種が多く、複眼が接しているかどうか、腹部の節のどこに模様があるかといった細かい部分で見分ける必要がある。
「たぶんこの辺りの仲間」というところで止めておくのが誠実だろうね。
花の庭で聞こえた、「ブルービーがいる!」

水の庭を通り抜け、モネのアトリエをモチーフにしたギャラリー&ショップをのぞいてから、いよいよ最後の花の庭へ向かう。
ちなみに花の庭へは、一度出口を出て駐車場を抜けていく必要があるので、少し戸惑った。
花の庭を歩いていると、前方で人だかりができていて、「ブルービーがいる!」という声が聞こえてきた。
ブルービー。
正式名称をナミルリモンハナバチという、黒い体に鮮やかな青の模様が入ったハチだ。
幸せを呼ぶ青いハチと呼ばれていて、モネの庭はこのハチが飛来することでも知られているらしい。
……というのを、僕はこのとき初めて知った。
近づいてみると、確かにいた。
黒地に空色の斑紋が入った、思っていたより小さなハチ。
写真を撮ろうとカメラを構えたのだけれど、これがまあ動き回る。
花から花へ、じっとしている時間がほとんどない。
結局、まともに撮れたのは1枚だけだった。
「幸せを呼ぶ青いハチ」の、意外と黒い一面

このブルービー、調べてみると生態がなかなか強烈だったんだ。
ナミルリモンハナバチは、自分では巣を作らない。
何をするかというと、スジボソコシブトハナバチのような別のハチが作った巣に、こっそり自分の卵を産みつけているとみられている。
孵化した幼虫は、宿主が我が子のために集めておいた花粉を食べて育つ。
これは「労働寄生」と呼ばれる習性で、鳥でいうところのカッコウの托卵に近い。
他人が汗水垂らして貯めた食料を、そっくり横取りして育つわけだ。
幸せを呼ぶ青いハチという呼び名からは想像しにくい、なかなかしたたかな生き方をしているよね。
ただ、これは決してズルというわけではなくて、他のハチの巣を利用するというニッチを見つけた、ひとつの生存戦略なのだと思う。
ちなみにナミルリモンハナバチは個体数が少なくて、環境省のレッドリストでは情報不足に分類されているんだ。
絶滅しかけているのかどうか、判断できるだけの記録がまだ集まっていないという意味だね。
県ごとに見るともっとはっきりしていて、茨城県では準絶滅危惧、青森県では最重要希少野生生物に指定されている。
宿主となるハチがいなければ生きていけないという性質上、その生息数は宿主の環境にも左右される。
青いハチが見られるということは、その場所に宿主のハチが暮らせる環境が整っているということでもあるんだ。
一方、クマバチは撮らせてくれた

さて、ブルービーに悪戦苦闘していた僕だけれど、実はそのすぐ横に、もう1匹気になるハチがいた。
クマバチだ。
こっちは、とにかく撮りやすい。
ブルービーが常に飛び回っているのに対して、クマバチは花に留まる時間が長い。
じっくり蜜を吸っている間、こちらはいくらでもカメラを構えられる。
正直に言うと、僕は途中から完全にクマバチに夢中になっていた。
丸っこい体で花にしがみついている姿が、なんというか可愛いんだよね。
結果、この日撮った写真はブルービー1枚に対して、クマバチ多数という配分になった。
希少なブルービーを探しに来ていた人たちには申し訳ないけれど、目の前でじっとしていてくれる生き物の魅力には勝てなかった。
絵を見に来たはずだった
そんなこんなで、モネの庭を一周した。
絵画好きとして「モネが見ていた景色を見たい」という目的で来たはずが、気づけばオオゴキブリを観察し、ブルービーを追いかけ、クマバチを撮りまくっていた。
でも、これはこれで悪くなかったと思う。
モネがジヴェルニーの庭で見ていたのも、きっと睡蓮や光だけじゃなくて、そこに集まる虫や、水面を横切るトンボや、季節の移ろいそのものだったはずだ。
庭を「絵の題材」としてだけでなく、生き物が暮らす場所として見たとき、あの庭はまた違う顔を見せてくれる。
高知に行く機会があれば、ぜひモネの庭へ。
ただし夏に行くなら、飲み物は多めにね。本当に暑いので。
今回も未来を覗き見れたかな?それじゃ、バイバイ!
参考にした資料
・北川村「モネの庭」マルモッタン(こうち旅ネット/高知県観光情報Webサイト)
https://kochi-tabi.jp/search_spot_sightseeing.html?id=1084
・オオゴキブリ(森林研究・整備機構 森林総合研究所 多摩森林科学園)
https://www.ffpri.go.jp/tmk/kengakuannai/midokoro/koncyu/oogokiburi.html
・ナミルリモンハナバチ(茨城県の野生動植物データベース)
https://tayousei.pref.ibaraki.jp/creaturekind/ナミルリモンハナバチ/
・ルリモンハナバチ(環境省 生物多様性センター)
https://ikilog.biodic.go.jp/LifeSearch/detail/?life_darwincore_id=9896677




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