生き物

夜光虫と赤潮―昼と夜で顔が変わる不思議な海の主役

青く光る波打ち際を、夜に歩く羊さんの後ろ姿

静岡県沼津市の海岸で、波が青白く光る――そんな幻想的な光景のニュースを見た人もいるんじゃないかな。

でも、この光の正体をちゃんと知っている人は意外と少ないと思う。
しかも調べてみるとこの生き物には同じ名前なのに中身の違う2種類がいたり、昼に見せる顔と夜に見せる顔がまるで別人のように違ったりすると、思った以上にややこしい。

今回はそんな夜光虫の知られざる素顔を、じっくり紐解いていこうと思う。

さあ、僕と一緒に未来を覗き見に行こう。

目次
  1. この青い光、見たことある?
  2. 夜光虫って、そもそも何者なのか
  3. 光合成する夜光虫がいる―同じ種なのに、中身が違う
  4. 昼は赤潮、夜は発光―同じ生き物の二面性
  5. 光る仕組み―ルシフェリンとルシフェラーゼの化学反応
  6. 光る理由は、実はまだ解明されていない
  7. 青い波の先にある、海のもう一つの顔
  8. 参考にした資料

この青い光、見たことある?

2026年4月末、静岡県沼津市の海岸で、波が青白く光るというニュースを見た人も多いんじゃないかな。

https://www.at-s.com/snews/article/ats/1967069.html

波が岸に打ち寄せるたびに、まるでネオンサインのような青い光がフワッと浮かび上がるあの幻想的な光景。

この光の正体は、夜光虫(やこうちゅう)と呼ばれる微小な生き物だ。

ただ、調べていくとこの生き物、思った以上にややこしい。
同じ夜光虫という名前の下に、実は全く性質の違う2種類の生き物が隠れていたり、昼と夜でまるで別人のような顔を見せたりする。

今回は、この小さな生き物の知られざる素顔を、じっくり追っていこうと思う。

夜光虫って、そもそも何者なのか

夜光虫(ノクチルカ)の拡大図

この記事で主に扱う夜光虫は、学名をノクチルカ(夜光虫の正式な学名で、捕食性を持つ生物。)・シンチランス(Noctiluca scintillans)という。

ラテン語で「夜(noctis)」と「光る(lucens)」を合わせたものが語源だというから、まさに名前からして夜に光るものという意味合いの生き物だ。

体はほぼ球形で、大きいものだと直径が1mmを超えることもある。結構大きいね…。

単細胞生物としてはかなり大きな部類で、条件が揃えば顕微鏡なしでも肉眼で見えるほどだ。

日本近海では春から初夏にかけて大発生することが多く、沼津や鎌倉など内湾沿いの海岸でよく目撃される。
波や船の排水など物理的な刺激で発光するのが特徴で、波が打ち寄せる度に光がはじける様子は、知らないと宇宙の場面でも見ているかのような魅力がある。

光合成する夜光虫がいる―同じ種なのに、中身が違う

ここで、あまり知られていない話をしようと思う。夜光虫には赤色型と緑色型があって、この2つは中身がまるで違うんだ。

僕らが日本の海で見るのは赤色型のほう。光合成はせず、他のプランクトンを食べて生きている捕食者だ。植物性の祖先を持ちながら食べる側に回った、ちょっと変わった渦鞭毛藻(植物と動物の性質を併せ持つ微小な海洋生物。)(うずべんもうそう)の仲間なんだ。

ところが熱帯の海にいる緑色型は、体の中に光合成をする別の生き物を住まわせている。自分は食べる側のままで、居候に光合成をさせているというわけだ。

同じ種なのに、片方は狩りをして、片方は居候に稼がせている。名前は一つでも、暮らし方はここまで分かれるんだね。

昼は赤潮、夜は発光―同じ生き物の二面性

赤潮でピンク色に染まった海面

夜光虫は、実は昼間の顔も持っている。
大発生すると海面がピンクやオレンジ色に染まり、これがいわゆる「赤潮」の一種として扱われる。

大量の夜光虫が水中の酸素を消費することで魚介類が酸欠したり、悪臭を発することもあり、漁業関係者にとってはありがたくない存在だ。

ところが日が沈むと、同じ夜光虫が今度は波間に乗って幻想的に光る。
昼の困ったものと夜の美しいもの、この相反する2つの顔は、実は同じ一つの生き物が見せているだけなんだ。

光る仕組み―ルシフェリンとルシフェラーゼの化学反応

ルシフェリンとルシフェラーゼの発光反応の仕組み図

夜光虫が光る仕組みはホタルなどの発光生物と基本的に同じで、体内にあるルシフェリン(発光生物の体内にある発光物質のこと。)という発光物質が、ルシフェラーゼ(発光反応を起こす酵素のこと。)という酵素の働きで酸素と反応して光を発する。

夜光虫の場合、この発光反応は細胞内の小さな袋(発光顆粒(夜光虫の発光反応が起きる細胞内の小さな袋。))で起きていて、機械的な刺激(波の動きなど)を受けるとカルシウムイオンが流入して発光顆粒が反応を起こすと考えられている。

この仕組み自体は実は蛍やホタルと共通する部分があり、発光という現象が生物の進化の中で何度も別々に生まれたというのも面白いところだ。

光る理由は、実はまだ解明されていない

ただ、調べていて一番引っかかったのはここだった。

光り方はこれだけ細かく分かっているのに、なぜ光るようになったのかは誰も知らないんだ。

仮説はいくつかある。捕食者を驚かせて逃げるため。あるいは光を出して、もっと大きな捕食者を呼び寄せるため。

自分を狙っている相手を、代わりにやっつけてもらうというわけだ。ただ、どれも決め手に欠けている。

さらに面白いことに、実は光らない夜光虫もいる。アメリカ西海岸の夜光虫を調べた研究によると、発光に使う酵素の遺伝子は持っているのに、それが使われていなかったんだ。

しかも光るための材料そのものが、体の中から無くなっていた。
道具は残っているのに材料が切れていて、そもそもスイッチも入らない。そういう状態だった。

光る力を持っていた仲間が、どこかでそれを手放したということになる。
なぜ手放しても平気だったのかは、まだ分かっていない。光る必要がない海って、どんな海なんだろうね。

青い波の先にある、海のもう一つの顔

夜光虫は名前の混同もあれば、昼と夜で真逆の顔を持つなかなかにミステリアスな生き物だった。

光らない個体さえいるということも含めて、この小さな仲間はまだ多くの謎を抱えている。

次に海が光るニュースを見たときは、この小さな仲間の二面性を、ふと思い出してほしい。

今回も未来を覗き見れたかな?それじゃ、バイバイ!

参考にした資料

・Geographical distribution of red and green Noctiluca scintillans(Journal of Oceanology and Limnology, 2011年)
・Molecular and biochemical basis for the loss of bioluminescence in the dinoflagellate Noctiluca scintillans along the west coast of the U.S.A.(Limnology and Oceanography, 2019年)
・赤潮をつくる夜光虫って良い奴、悪い奴?その役割は?(日本大学 生物資源科学部 海洋生物学科)

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