僕自身、最近は感じなくなってしまったけど皆は雨の匂いというものを知っているだろうか?
少し感傷も感じるようなあの匂いを好きな人も一定数いると思う。
ちなみに僕はあの匂いが結構好き。
そしてこの匂いは、人によっては雨が降る前にも感じ取ることができるなんて話も聞く。
そんな独特な匂いを知っている人はわりと多いと思うんだけど、実はどうも雨自体には雨の匂いがないらしい。
じゃあどこからその匂いがしているのか?
一番最初に思いつくのは雨が落ちた先になる地面だろう。
ただ、その地面でも土の匂いっていうわけでもないんだ。
今回はそんな謎の多い雨の匂いが発生する場所や原因を科学的な視点で見てみようと思う。
それでは、僕と一緒に未来を覗き見てみよう。
雨の匂いのきっかけが雨じゃなかったらどこから来てるの?

夕立の後や天気雨(狐の嫁入りとも)の時に外に出るとじめっとした空気の中にほのかに漂う雨の匂いを嗅いだことがある人は結構いると思う。
雨の降り始めにぽつぽつと降り始めるとほのかに香ってくるあの雨の匂いは、雨自体に匂いが含まれているのか?
もしくはアスファルトから香っているのか、それとも、乾いた土が湿ったときの匂いなのか?
そもそも雨が降ってくる空には原因となるものがないようなんだ。
ただ雨自体は雲から直接水滴が落ちてくるわけではなく、空気中に漂っている微粒子たち(エアロゾル)を中心に作られながら落ちてくるんだ。
つまりその微粒子たちが僕らが言う雨になるまでの間、塩や風で巻き上げられた細かな土埃など、様々な不純物を含みながら集まっていき、徐々に雨粒として地面へと向かっていく。
そしてこの雨粒には空気中の二酸化炭素も溶け込んでいて、それだけで雨はほんの少し酸性になる。
場所によっては、僕らが生活をする際に排出された化合物まで混ざり込むこともあり、実はとてもきれいな雨に見えてもたくさんの不純物が含まれた弱酸性の水の粒なんだ。
そしてそれらが地面に落ちた時、初めて僕らが雨の匂いとして感じる瞬間が起きるんだ。
雨が降り落ちた土の中で起きている不思議な科学

雨は最後に地面に当たって足元を濡らしていく。
この地面には目に見えないくらいの小さな穴がたくさん存在していて、その穴には空気が含まれている。
雨粒がこの地面に触れる1秒にも満たない瞬間には様々な出来事が起きているんだ。
まず雨が地面に落ちた時、雨が染み込む前に小さな穴に含まれた空気が気泡となって落ちた水滴の中を上に登っていく。
そして、その気泡が弾けることによって地面の中に含まれた細菌などを空気中に放出する。
そしてこの時、僕らが雨の匂いを感じる香気成分も一緒に空気中に舞うんだ。
ただしこの匂いを僕らが感じるための条件がある。
それは雨の強さなんだ。
雨の匂いを思い出せる人は、その時の雨の降り具合や天気を思い出してみてほしい。
実は雨の匂いが強くするときは、雨が弱い時や一時だけ降ったタイミングなどの雨量の時の方が強く感じやすく、逆に大雨や豪雨などの雨が強く降りしきる時は匂いを感じにくいんだ。
これは、雨が強すぎることによって、地面に水滴が触れた時にできるはずの気泡がそもそも作れないため、香りがしないんだ。
そして地面といっても、砂などの粒子が細かい場所では気泡ができる前に雨粒が地面に染み込んでしまうため、空気中に開放される時間が作れない。
逆に、水はけが悪すぎる地面もよくない。
砂と粘土質のあいだくらいの、ちょうどいい土壌のときに一番起きやすいんだ。
つまり雨は匂いの原因ではなく、あくまでも匂いを発生させるきっかけでしかないんだ。
ただここで一つ不思議なことがある。
雨が地面に当たったときに香りが出るという原理はわかったと思うけど、じゃあ雨が降る前に感じる「雨が降るな」という感覚も同じなのか?
実はこれは理由がわかってないんだ。
雨が降る前に感じるあの匂いにも、きっと何かしらの理由があるんだと思う。
でも今のところ、それが今回の雨の匂いと同じ仕組みなのかどうかは、はっきりしていないんだ。
乾いた日が続いたあとの最初の雨がいちばん匂う
一番面白いのは、雨があまり降らない日が続いた後に降った雨の方が一番香りを感じることができることなんだ。
どうやら乾燥している間、地面の中では何かしらの油分が蓄積していることが研究でわかった。
でもこの油が何由来なのか?一体どこから出来たのかがわからない。
ただ、2〜3週間ほどの日数をかけて溜まっていくことまでは判明している。
そして一番の驚きポイントは、この謎めいた油分が僕らが感じる雨の匂いの一部ということ。
この油分は僕らに香りを運んでくれる他にも、一部の植物の発育を阻害する。
現時点でわかってることはこの少ない情報だけで、発見から60年ほど謎に包まれた存在なんだ。
ゲオスミンが雨の匂いの正体だった

雨の匂いの一部として謎めいた油が含まれていることはわかったけど、じゃあ匂いの主成分はなんなの?という話になってくる。
実はこの匂いの正体には名前がついていて、ゲオスミンという物質が匂いとして僕らの鼻腔をくすぐっている。
そしてこのゲオスミンはどこから来ているのか?
このゲオスミンは、地中にいる放線菌の一部が出している香気成分なんだ。
なので、あの雨の匂いは謎めいた油分とこのゲオスミンが混ざったものだったということになる。
ゲオスミンは主にこの一部の放線菌が出す香りとしても有名で、土っぽい香りや、カビくさいとも表現されたりする匂いなんだけど、実はサボテンやビーツなどにも含まれているので、もしかしたらビーツを食べた時に感じたことがある人がいるかもしれない。
ちなみにサボテンなんて食べれるわけないよ!と言う人もいると思うけど、実は日本にはいくつかサボテンが食べられるお店があり、過去には静岡県伊東市にある伊豆シャボテン動物公園でも、サボテンを使ったステーキが期間限定で出てたこともあったんだ。
そしてこの静岡県伊東市では過去に新種の放線菌が見つかっている。
そこから寄生虫病の治療薬となる物質もその新種から生まれていて、2015年ノーベル生理学・医学賞を受賞しているんだ。
この放線菌は雨の匂いを出すものとは別の種類だけど、同じ放線菌の仲間なんだ。
このゲオスミンの香りは、4〜10ng/Lというかなり少ない量で人間は気づくことができる。
ng(ナノグラム)というとどれだけ薄いのかパッとしないと思うが、これは小さじ1杯のゲオスミンを、オリンピックプール200杯分の水に溶かしたときの濃さになる。
正直200杯分っていうのも規模が大きすぎて逆に想像がつかないと思うけど、つまりそれだけ濃度を薄めても僕らは匂いを感じ取ってしまうっていうことなんだ。
ゲオスミンの香りに魅かれるのは人間だけじゃない

放線菌がゲオスミンを出す条件も存在する。
このゲオスミンという香り成分は放線菌が胞子を作っているときだけ、空気中に放出することができる。
ただし、空気中に出るのは香りだけで、胞子は放出されないんだ。
ここから自然の面白いところなんだけど、ゲオスミンの香りに魅かれるのは人間だけじゃないんだ。
トビムシという小さな生き物がいる。
このトビムシは様々な種類が日本にはいるんだけど、このトビムシが放線菌の繁殖に強くかかわっている。
放線菌が胞子を作り、空気中にゲオスミンを放出するとトビムシはその香りに引き寄せられて近寄ってくる。
そうすることによって放線菌はトビムシたちの餌となり、体に胞子を付けたり、糞に交じったりして増殖をしている。
直接大きく移動することができない放線菌は虫を使って繁殖行動をすることができるようになるんだ。
つまりあの雨の匂いは小さな生き物たちの生命の営みの一つだったんだね。
ゲオスミンは陸では雨の匂い、水中ではカビの匂い

実はこのゲオスミンという香気成分は、雨の日以外にも影響が出てることがある。
もちろん、上記でも書いたビーツやサボテンなどにも含まれているが、陸地以外にも水の中でも同じことが起きている。
例えば川魚などの魚を食べた時に泥臭い、土っぽいと感じたり、聞いたことがあるのではないだろうか?
川魚などの自然界で生きている魚は食べた環境によって身の味が大きく変化する。
そしてその川魚が食べる藍藻(らんそう)にもゲオスミンを発生させるものがいて、それらを食べたり、藍藻を主食としている小魚を食べた捕食魚が食べる事によって、泥臭さを増やすことがある。
そしてこれは、自然界に住む魚だけの話じゃないんだ。
過去には、日本にある一部の汽水湖でカビ臭が発生して、そこで取れる水産物に着臭したこともあったり、養殖している魚にも環境によっては匂いがついてしまう場合がある。
それは僕らが使う水道にも同じことが言えるんだけど、水道の場合は基準値として10ng/Lとして明確に決められているので、それを上回った場合は水道局などの管理を行っている事務局が対応するようになっている。
雨の匂いが脳をくすぐる日々
僕らが日々を重ねると同時に、足元では小さな生き物たちが今を生きていることが雨の匂いからわかったと思う。
雨の匂いをもし感じる機会があったら、目に見えない気泡が弾けたことや、どこかで放線菌が香りを出して、それにトビムシが魅かれているのかもしれないと、思い出してみてほしい。
そしてこの香りを出す生き物たちが、実は僕らの未来の医学にも少なからず関連していることも今回の記事で知ることができていたらうれしい。
ただ今もまだわからないことがたくさんある雨の匂いの不思議は、これからも僕らの脳をくすぐる香りを届けてくれるのだろう。
今回も未来を覗き見れたかな?それじゃ、バイバイ!
参考にした資料
・Aerosol generation by raindrop impact on soil(Nature Communications, 2015年1月14日)
https://www.nature.com/articles/ncomms7083
・The smell of rain: how our scientists invented a new word(CSIRO, 2015年3月31日)
https://www.csiro.au/en/news/all/articles/2015/march/the-smell-of-rain-how-our-scientists-invented-a-new-word
・Petrichor and Plant Growth(I. J. Bear and R. G. Thomas, Nature 207, 1415–1416, 1965年9月1日)
https://www.nature.com/articles/2071415a0
・Developmentally regulated volatiles geosmin and 2-methylisoborneol attract a soil arthropod to Streptomyces bacteria promoting spore dispersal(Nature Microbiology, 2020年4月6日)
https://www.nature.com/articles/s41564-020-0697-x
・Human odorant receptor for geosmin identified for the first time(Leibniz-LSB@TUM, 2024年8月1日)
https://www.leibniz-lsb.de/en/press-public-relations/pm-20240801-press-release-geosmin-odorant-receptor
・環境水中ジェオスミンの三つの定量法による測定値の差の要因(神門利之ほか, 分析化学 64巻10号, 2015年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku/64/10/64_769/_article/-char/ja
・大村智博士の紹介(大村智記念学術館・山梨大学)
https://omura-museum.yamanashi.ac.jp/profile/
・酸性雨に関する基礎的な知識(気象庁)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/env/acid/info_acid.html
・サボテンステーキとは?気になる味・食べ方や有名なお店を詳しくご紹介!(BOTANICA, 2020年12月)
https://botanica-media.jp/4857?p=2






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